金沢 「鮨 飛(とび)」(令和4年12月訪問)

前田利家公とおまつの方を祀る金沢の観光名所「尾山神社」からほど近い寿司店「飛(とび)」。

初見では店の前を通り過ぎてしまうくらいの小さな文字で店名が書かれた入口の暖簾をくぐると、右側に個室、左側にカウンター席があります。

入口について、「1度目は迷って探して、2度目ちゃんと来れるように覚えてもらう仕掛けなんです」

と語る店主の飛地大将は、先月惜しまれつつも閉店した野々市の「太平寿し」で修行され、ホテル日航を経て独立された職人。客との適切な距離感を保ちつつ、食材(特に海苔はすごい)のこだわりについて、ネタごとに冗談も交えながらたくさんお話ししてくださり、勉強になることばかりでした。

岩塩と醤油の食べ比べ
生と炙りの食べ比べ

おまかせがスタート、まずはマハタの刺身。2種類の食べ方で風味、テクスチャの違いを楽しみます。見た目ほど脂ブリブリでなく、わさびや塩でさっぱり食べられる。

サバの棒寿司は1本丸ごと食べたい。脂が綺麗なのでどんよりすることもなくお腹の潤滑油として先週の阪神JFサンティーテソーロの如くロケットスタートが切れる。

海苔を味わう鰻手巻き
コリコリ食感、酒が進む…

冒頭紹介した通り、飛地大将の海苔へのこだわりは強く、同じ佐賀の海苔でも微妙に収穫時期などが異なるものを用意してくれる。その第一弾がこの鰻の手巻き、海苔がとにかく美味いが、鰻の主張もしっかり通す感じ。

ゲソは大ぶりにカットしていただく。当たり前にうまくお祭りを思い出す風味もまた食欲を増進させてくれる。

意外と敬遠されがちな外子はシャリに混ぜ込み型

冬の金沢に来たら恒例の香箱蟹。やはり蟹面のこの状態が最も美しい。カニ酢でいただきます。ハート型のシャリには外子が混ぜられており、あの独特な塩気と大将の愛を感じてたら、「そういうつもりじゃないから(笑)」って言われた。ツンデレかな?(違う)

スナズリの下には予想外のシャリ(?)

お次はブリ!奥にぼかしてあるのがスナズリ、ブリトロを凌駕する脂が強烈ですが、これを包み込む仕掛けがシャリ部分に仕込まれているのでぜひ、お店で食べてみてほしい。「ただのソレ」じゃないこともまたすばらしい。

スペシャリテ「ノドグロの蒸し寿司」

「太平寿し」の代名詞であるノドグロの蒸し寿司。これヤバいですね(語彙力)。ノドグロというと火入れが絶妙な「乙女寿司」を筆頭に、綺麗な脂の旨味が押し寄せる型が主流ですが、蒸しだとシンプルにノドグロという魚の旨味をすごく感じられる。粘度のあるシャリとの相性も抜群。

言うことなしのねっとり感
しっかり味がとても好み

甘エビとヅケ。ボキャ貧なのでうまく表現できないものの、当たり前に美味しいというのを全てのネタで感じられるお店は多くないので幸福である。

トロは完全に肉
海鼠腸って読めたらモテるらしい

お気づきだろうが、こちらはつまみと握りと巻物がランダムに出てくる。お酒が強くない私のような人間にとってはこれが非常に嬉しい。前半でつまみが終わる通常のスタイルだと、空腹に酒を入れる必要があり、後半の記憶がなかったり、写真がブレッブレなことが多いので…

ここで登場する炙りヅケトロの手巻きで海苔の食べ比べ第二弾。ザクっといく至高のトロは完全に肉である。この強烈な個性に負けず香る海苔には恐れ入った、負けず嫌い同士が高め合った結果がこれか。

シャリの上にアオリイカ、そこにコノワタがかかったこちらは少量ながら、酒飲みならば一気に飲み干すレベルのものだろう。島根の離島にルーツを持つ私にとってはあまり珍しくないが、味はまさに珍味。かなり強烈であり、梅酒のソーダ割りでは磯の香りが流せない。

自称寿司ツウが怒り出すと噂の逸品

そして、個人的に衝撃的だったのがコハダを使ったこの小鉢。元は古くなった光り物をまかないとして出していたものらしい(この手のまかない→正規メニューのストーリーは往々にして面白いから好き)。江戸前の看板とも言えるコハダを脇役的に出すこの行為に対して、自称寿司ツウの皆様からは「コハダに自信がない」などと痛烈なご指摘をいただくことが未だにあるそうだが、これが本当に美味い。酸っぱいパサパサのコハダを食わされるより1000倍マシで、ガリと大葉とゴマでシンプルに構成された芸術。脱サラしたらこの丼の専門店を出したいレベル。

山陰の誇る冬の味覚である。

仰々しいせいろで運ばれてきたのが松葉蟹の蒸し寿司。蓋を開けるとサウナのような木の香りと共に甲殻類の香りがフワッと。濃厚な味噌と共に松葉のジューシーさと甘みを堪能できました。

昆布締めって北陸を感じるよね
珍しいタイプの玉

段々と締めが近づいてきます。マトウダイの昆布締めと、出来立てで提供される玉。江戸前のおぼろ入りやデザート風が多いですが、こちらはシンプルな出汁巻き。甘くて美味しい。

わさびの効き方は選択可能です

最後はかんぴょう巻き!わさびはもちろん激辛で。海苔の食べ比べもこれで終わり!

半泣きになりましたが、もう一段階くらいは辛くできそう(笑)わさびのおろし方ひとつで、ここまで風味が変わるから食べ物って面白い。

香箱蟹と松葉蟹という冬の日本海の2大ブランド蟹を贅沢にいただいてお酒も飲んで1人20000円少々。東京で同じことをしたら少なくとも2倍する内容、恐るべし金沢(というか東京が高すぎる)。

おすすめ度:
予算:15000~20000円 
住所:石川県金沢市尾山町12−5
電話番号:076-255-2768
アクセス:金沢駅からバスで「武蔵が辻・尾山神社」バス停から徒歩5分程度
予約:必須ではないが推奨。


旅のオトモに!ぜひシェアしてください!
目次